なぜ“国会議員は逮捕されない”と言われるのか?

経済

私たちが犯罪を犯すと当然逮捕されますが、「国会議員の方たちは犯罪を犯しても逮捕されない」そのようなことを聞いたことがあると思います。そんなことが本当にあるのでしょうか?

結論から言うと、「完全に逮捕を免れるわけではありませんが国会の会期中は原則として逮捕されない」という決まりが憲法に定められています。

この記事では、「なぜ国会議員だけが会期中に逮捕されないのでしょうか?」その歴史的背景と意味をに解説していきます。

日本国憲法

日本国憲法第4章国会の第50条では

両議院の議員は、法律の定める場合を除いては国会の会期中逮捕されない*1

このように規定されている。この国会法では「会期中には逮捕に制約がある」このように定められています。なぜこのように規定されていて、例外やどのように運用されているのでしょうか。

日本国憲法第4章国会第50条

国会議員が逮捕される状況と逮捕されない状況を例外とともに3つのパターンに分けて考えます。

  • 現行犯逮捕の場合:国会外で犯罪が行われ、現行犯逮捕の要件を満たす場合は例外的に逮捕される。
  • 会期中でも逮捕出来る場合:捜査機関が逮捕状を取り内閣から国会に「逮捕許諾請求」を行い、議会が許諾すれば逮捕される。
  • 会期外または辞職後:会期中でなければ通常の手続きで逮捕・起訴される。

ここから、「議員は逮捕されない」という情報は誤解であり、「会期中であれば逮捕されることはない」というのが正しい情報であることが分かります。

もちろんこの意見に対してそれでも「会期中に逮捕されないのは特権だ」と考えるのも納得できます。では、なぜこのような憲法が制定されたのでしょうか?

なぜこのような制度があるのか?

この制度が生まれた理由は、民主主義を守るためです。

戦前の日本では政府が治安維持法などを使い、反政府的な言論人や議員を逮捕し、議会や言論を封じ込めた時代がありました。例えば「三・一五事件」では、反政府の議員や支持者が逮捕され、政府批判が出来ない状況が作られていました。

このような歴史の反省から、戦後の日本国憲法では「政府が議員を恣意的に逮捕して議会を支配することを防ぐため」不逮捕特権が設けられたのです。

三・一五事件」を少し詳細に書くと、以下のようになります。*2

1928年3月15日に政府が治安維持法により、日本共産党を壊滅を目的に約1600人が逮捕された事件で、第1回普通選挙(1928年2月)の直後に「選挙で選んだ議員を拘束する」という事態が起きました。

日本では言論・思想の自由が憲法で保障されているため、政府が都合の悪い議員を逮捕して独裁のような政治体制にならないためにこの特権が作られました。

つまり、これは「議員を守る特権」ではなく「民主主義を守る制度」なんです。

ではなぜ多くの人が「議員は逮捕されない」と感じるのでしょう?これらの事例を考えてみました。

なぜ「議員は逮捕されない」と感じるか

考えられる理由は3点ほどあります。

  1. 会期が長い
  2. 逮捕には国会の許可が大きい
  3. メディア報道の遅れ

1つ目の理由として会期が長いため、国会が実質的に一年中開かれているため、常に会期中の扱いでその期間は逮捕されないというのが考えられます。

2つ目に逮捕するには国会に「逮捕許諾請求」を出す必要があるため、政治的衝突を嫌って許可を出さないことなども考えられます。

最後にメディアが報道する際には「疑惑」の段階で報道することが多く、実際に逮捕されるのは会期終了後になるため、「議員は逮捕されない」と見えてしまうことが考えられます。

こんなことを言っても実際に逮捕されてないと形骸化した制度になってしまうので、実際に逮捕された事例を見てみましょう。

逮捕された事例

ここでは2つの事例を扱います。

ロッキード事件*3

田中角栄(元)首相はロッキード事件で1976年に逮捕・起訴され、最終的に贈収賄などで裁判を受けました。この事件では、

  • 政治的地位が高くとも逮捕されました。
  • 会期終了後に逮捕されました。

ロッキード事件では実際に会期終了後の裁判で有罪判決となっており、これは制度を遵守した結果であることが分かります。

鈴木宗男事件*4

鈴木宗男(当時)衆議院議員は2002年に逮捕・起訴され、その後の裁判で有罪判決を受けました。

  • 会期終了後に逮捕されました。

こちらも同様に会期が終了した後に裁判で有罪判決となっています。

2つの事例から読み取れるのは、重要政治家であっても逮捕・起訴はされるが、タイミングや手続、政治的影響が捜査に関わるため私たちが想像する逮捕像とは異なることによってこのような誤解が生まれていることが分かる。

結論

国会議員が逮捕されないのではなく、実際には国会の会期中には現行犯でなく、逮捕許諾請求が認められなければ逮捕されないという事から誤解が生まれていることが分かったと思います。

このような制度が特権であるという意見があることももちろん分かりますが、独裁を防ぎ、言論・思想の自由を守ることで「民主主義」を守るという背景から生まれた制度だと理解することで、どのような国にしていくかという国の思想の基盤も見えてきます。

政治への信頼を保ちながら言論・思想の自由を守るためには、こうした制度を正しく理解し、その運用を監視していくことが重要です。

ここまで読んでいただきありがとうございます。
ご意見・ご質問・ご要望がある方は以下のTwitterやInstagramのdmまでよろしくお願いいたします。

参照

*1:日本国憲法第4章国会第50条
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/dl-constitution.htm#:~:text=%E7%AC%AC%E4%BA%94%E5%8D%81%E6%9D%A1%20%E4%B8%A1,%E9%87%88%E6%94%BE%E3%81%97%E3%81%AA%E3%81%91%E3%82%8C%E3%81%B0%E3%81%AA%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84%E3%80%82
*2:三・一五事件https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E3%83%BB%E4%B8%80%E4%BA%94%E4%BA%8B%E4%BB%B6
*3:ロッキード事件https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%83%89%E4%BA%8B%E4%BB%B6
*4:鈴木宗男事件https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%88%B4%E6%9C%A8%E5%AE%97%E7%94%B7%E4%BA%8B%E4%BB%B6

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