将来の年金負担率が1人で1人以上を見なければいけない。今の受給額よりも年金がもらえなくなってまともな生活が出来ない。年金についてのイメージはこんな感じで暗いものが多いと思います。
では、実際に年金が廃止されたらどうなるのでしょうか?「私たちの手取りが増えて、生活がしやすくなる」そんな風に感じます。
年金の役割とメリット・デメリットを考慮に入れながら、年金が廃止される際のモデルを考えて、計算してみたいと思います。
年金とは
日本の年金制度はよく「何階建て」というように階層表現をされます。これは以下の図のように国民全員が受け取れる「国民年金」と労働者が受け取れる「厚生年金」に分かれているからです。

引用:https://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/manga/04.html
- 1階部分:国民年金(基礎年金)のことで、20歳以上60歳未満の日本国民が加入している。
- 2階部分:厚生年金保険と言い、会社員や公務員などが加入している。これは、国民年金に上乗せされて老後得られる
- 3階部分:企業が任意で設立して、社員が加入する企業年金や、上図の第1号被保険者が任意で加入できる国民年金基金などがあり、3階部分に関しては加入は任意である
- 4階部分:確定拠出年金(iDeCo)という個人で年金を積み立てる制度も存在し、年収によって限度額が決まっており、税制優遇としても用いられる
年金制度の役割
年金は「老後にお金をもらう制度」と思われがちですが、社会全体を安定させるため、実は複数の機能が備わっています。
- 所得保障:年老いて、自ら十分な貯蓄ができなかった人などの最低限の所得を保障する機能
- 世代間連帯:現役世代が保険料を納めて、受給世代の年金を支える「賦課方式」によって、人口構造や経済ショックに対してある程度の安定性を保つ機能
- 再分配機能:所得の多い少ないに関わらず年金を保障することで、所得格差の縮小や所得が低い方への保護する機能
この3つの機能が上手く作用することで、日本社会は「老後破産の連鎖」や「貧困の固定化」をある程度防いできました。
年金の金額
年金は払った金額が老後に返ってくると思われがちですが、実際は年齢によって払った金額より多くもらえることもある。これは、「課賦式」という事も影響しているが、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が私たちの年金の一部を積立や運用を行うことで、年金財政の安定に貢献している側面もある。
年金額
国民年金保険料の金額は、1カ月あたり17,510円です。(令和7年度)*1
また、厚生年金保険料は給料の18.3%(平成29年9月以降)に固定されていますが、実際に労働者が負担するのはその半分の9.15%であり、もう半分は事業主が負担します。*2
年金給付額
年金給付額は、加入期間、平均報酬、報酬比例などによって決まります。例えば、厚生年金の老齢給付は「平均標準報酬月額 × 加入月数 × 所定の係数」でおおまかに計算されます。*3
例えば、月給30万円で厚生年金を40年間(=480か月)納めていたとすると、
300000 × (5.481/1000) × 480 = 約790000円/年
参照:https://www.asahi.com/relife/article/15091000
これに国民年金の基礎年金を加えると、年150万円程度の年金が見込まれる計算です。
年金のメリット・デメリット
| メリット | デメリット |
| 貯蓄や投資を国がある程度支えてくれている | 少子高齢化によって保険料負担が重くなる |
| 寿命の長寿化や資産価格変動などを年金によって緩和している | 資産の貯蓄や運用といった個人の活動が制限される |
| 年齢により納めた額より多くの金額をもらえる | 所得比例制のため、低所得者は給付が少ない |
年金の問題点
メリットデメリット以外にも問題点としては
- 世代によって給付額が異なる
- 人によっては資産形成したほうが資産を潤沢に得れる
などが存在する。これは年金が全国民の負担を一律にし、労働できなくった時の貧困や老齢破綻を無くすという思想のもとにつくられたので、考え方の問題もあると思いますが経済を安定させる機能から仕方のない問題のようにも思います。
実際に年金が廃止されたら
ここからは、もし年金制度が廃止されたらどのようになるかを「手取りの増加」と「将来の給付額」の二つに絞ります。このとき物価上昇率は日本銀行が想定している2%とします。その際に年金制度がどうなるかを考えていきます。
仮定
ここで厚生年金に40年加入し、20年間受給することを考える。20歳から65歳まで働き、65歳から85歳まで存命であることを仮定する。厚生年金の9.15%を負担し、日本銀行が想定している物価上昇率が2%の場合を考えます。また、1年の生活費はその人の年収の60%と仮定します。
将来的に年金給付がもらえないと仮定し、現時点で想定されている年金受給額との比較を行う。
年収別にそれぞれの場合を分けて、比較します。
case1:年金がある場合
年金制度がある場合、給付額は物価に応じて変動する仕組みがありますが、完全連動ではありません。ここでは、物価上昇率2%に対して年金上昇率1%と仮定します。その場合
| 年収(万円) | 給付額/年(万円) | 85歳での給付額/年(万円) |
| 300 | 100 | 122 |
| 500 | 150 | 183 |
| 800 | 200 | 244 |
インフレがあっても、年金の購買力はほぼ一定に保たれるように年金が設計されているため、最低限の生活は見込める。
case2:年金を廃止した場合
年金を支払う必要がなくなり、可処分所得が増加します。しかし、物価も2%ずつ上がるため、今の手取をそのまま貯金しても実質的には目減りします。
| 年収(万円) | 貯蓄額/年(万円) | 65歳時点での貯蓄額(万円) | 実質的な金額(万円) |
| 300 | 120 | 5400 | 3600 |
| 500 | 200 | 9000 | 6000 |
| 800 | 320 | 14400 | 8600 |
もちろん、今までの日本経済のように停滞を起こし、30年間デフレが続く環境ももちろん考えられますが、一般に資本主義経済はインフレを基準に作られているので、このような場合だと貯金をしているだけだと、可処分所得は増えますが実質的な金額では減っており、年金がないと年収によって破綻する世帯が生まれる可能性があります。それを以下の図で確認してみましょう。

このように実線が年金ありのシミュレーションで、破線が年金なしのシミュレーションになっています。ここからわかることは物価の上昇しているときなどを考慮している年金があることで、資産の減りが緩やかになるのです。
ここでは、インフレ率やそれに対する年金上昇率、また昇給による年収の上昇も考慮に入れた計算をしているため、間違いがあるかもしれませんので、どのように考えたかを以下に記しておきます。
- 物価上昇率2%(変動率0.5%)
- 年金上昇率1%(変動率0.5%)
- 昇給率1%(変動率1%)
- 1年の生活費はその年の給与の60%と固定
- 基礎年金はどの年収でも固定
結論
年金が廃止されたら手取りが増えるという短期的での一面は正しいのですが、長期的な視点に立つと将来の給付を失う損失のほうがある一地点を境に大きくなります。(70歳前後)これはあくまでも簡易的なモデルで、変数も少ないですが社会全体の働きとして、富の再分配や一律な給付によって破綻する人が少なくなるような設計をされているため、「年金制度をどう捉えるか」これを様々な視点で考える必要があると思います。もちろん、市場にさらして投資をしたほうが機会損失にならずに良いという考えの人もいるでしょうが、それが格差を生み出し社会全体に良い影響を生むのか?また、失敗した場合の保険と考えてもいいのではないか?いろいろな考え方はあると思いますが、年金はこのような思想の基設計されたのです。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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参考文献
*1:https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/hokenryo.html#:~:text=%E5%9B%BD%E6%B0%91%E5%B9%B4%E9%87%91%E4%BF%9D%E9%99%BA%E6%96%99%E3%81%AE%E9%87%91%E9%A1%8D%E3%81%AF%E3%80%811%E3%82%AB%E6%9C%88%E3%81%82%E3%81%9F%E3%82%8A,%EF%BC%88%E4%BB%A4%E5%92%8C7%E5%B9%B4%E5%BA%A6%EF%BC%89%E3%80%82
*2:https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/ryogaku/ryogakuhyo/index.html
*3:https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/kyotsu/nenkingaku/20150401-01.html
https://www.nenkin.go.jp/service/seidozenpan/20140710.html
お金の大学(両学長)


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